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2008年10月 9日 (木)

フレンチレストラン・「龍土軒」

「龍土軒」は麻布の龍土町(現在はその地名はない)にあることからその名がついた。創業1900年(明治33年)、上野の「精養軒」と並ぶフランス料理草分けの老舗だ。

ここは明治、大正の文化人の溜まり場(サロンのようなもの・「龍土会」と称する)として名を馳せたところ。まず岩村透が美術家を集めて「龍土会」の基礎を築き、それ以来、柳田国男を中心に国木田独歩や田山花袋などの文学者が集まり、さらに正宗白鳥、島崎藤村をはじめとする自然主義の文筆家が多く出入りするようになった。軍人にも縁が深く、乃木希典は開店以来の顧客だったし、麻布連隊に近かったことから、2.26事件に関与した青年将校たちのお気に入りの店だったともいう。

予約しておいた6時に少し遅れてしまったが、ちゃんと奥さんが店の前に立って私と母を待っていてくれた。小さな店だが窓に深紅のビロードのカーテンが架かり、ワイン棚が柔らかな照明に浮かび上がっている。魚のコースはパテ、冷たいコンソメ、白ワインソースをかけたスズキとサラダにパン。肉のコースはホタテのグラタン、冷たいコンソメ、牛肉のステーキとサラダにパン。ともにデザートとコーヒーが付いている。

今や日本のフレンチは、本場フランスより美味しく見栄えが良いと評判だが、どこへ行ってもあまり相違は感じられない。舌先だけの美味しさは空しく、大きなお皿にかっこよく派手に盛り付けられた料理もなんだか見ているだけで疲れてしまう。「龍土軒」のフレンチはそこへいくと媚びもへつらいもなく気に入った。ねぇ見て見て見て、ねぇ美味しいでしょ美味しいでしょ美味しいでしょ、というおしゃべりなフレンチではなく、寡黙でどっしり腰をすえたフレンチ…けっこう濃厚なのだが、あとで喉が乾かない料理は本物だろう。

デザートとともにご主人の4代目シェフ岡野さんも登場。奥さんと4人で、フランスのことやお料理の話に花が咲き、大分長居をして、おふたりに見送られて店を出る。水曜日のせいかお客は私と母だけ。今年80歳の母は、「私たちだけのためにお料理を作って下さったのね、心が籠もったお料理だったわ」と、満足げ。

当初の場所から40年ほど前にこちらに移転したが、ここもあと数週間で改築のために閉店、2年後にこのままの規模でここに新しい店を開店するという。

ちなみに龍土町といえば、江戸川乱歩の小説『人間豹』に登場する場所。明智小五郎が文代と結婚して龍土町の小さな西洋館で探偵事務所を開く。御影石の門柱には「明智探偵事務所」という真鍮の看板が掲げてある…ホームズの探偵事務所があったとされるロンドン、ベーカーストリートの賑わいをふと思い出した。

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