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2012年1月17日 (火)

ゴヤ展

 ゴヤの絵を久しぶりに見た。纏まりのある展示だったが、肝心の「黒い絵」の説明が…あったかしら。「黒い絵」はマドリッド郊外にあったLa Quinta del Sordo(聾の家)と呼ばれたゴヤ晩年の家の壁に描かれた一連の不思議な絵。今からちょうど40年前(1971年末から1972年にかけて) 今回と同じ、国立西洋美術館でゴヤの絵画展が開かれた。私はまだ大学生だった。その時に見た「黒い絵」の印象があまりに強く、世のなかにこんな絵を描く人がいるのだという驚きとともに忘れられない絵になった。2枚のマハもあったし、ナポレオン戦争の悲劇を描いたDos de Mayo(5月2日)もあったと思うが、私にとって一番印象的だったのはやっぱり「黒い絵」だった(現在「黒い絵」は傷みが激しく門外不出になっている)。
 それから10年ほどしてプラド美術館で「黒い絵」に再会し、私は完全にゴヤの虜になった。マドリッドで暮らした6年間、ゴヤの絵を探してスペイン中の美術館をくまなく歩いたものだ。堀田善衛の『ゴヤ』を読み、スペイン語で書かれたゴヤの伝記や作品集を辞書片手に一生懸命読んだりした。ゴヤはタペストリーの下絵描きからやがては王室のお抱え絵師(ベラスケスと同じ)になり、ナポレオン戦争を経てフランスのボルドーでこの世を去った。ゴヤの作品は見れば見るほど実に多くの人たちの影響を受けていると感じる。ゴヤは他の画家の作品を模倣し、さらに模倣を重ね、やがて自分本来のスタイルを見つけるという「努力型の天才」ではないかと思う。若い頃、私は「閃き型の天才」に憧れていたのでゴヤを知った時は衝撃だった。「閃き型の天才」に見えたのだ。けれども多くの作品を見た今は、やはりゴヤは「努力型の天才」だと感じる。
 今回はあまり展示されない作品が見られるのではないかと期待していたがそれもなかったようだ。油絵より圧倒的に版画が多かった。版画は本質的に絵画とは違うので、絵画展、と思っていたのでちょっと残念。版画のなかではDisprate ridiculo(滑稽の妄)というのが良かった。ゴヤの不思議な妄想そのもの。樹の枝に10人ほどの人間が乗っている。老若男女が一か所に固まって、まるで枝に巻きついている虫の卵か幼虫みたいに…、ぜんぜん動かない印象なのに本当に生きている感じで…。危うい樹の上でじっとしている…何だかアラブ風に頭から布を被っていたりして…。これとそっくりな油絵をマドリッドのサン・フェルナンド美術館(記憶に間違いがなければ)で見たことがある。
 久しぶりのビバ・エスパーニャだった。25年前は、ゴヤのことなら何でも聞いて、お答えできます、と胸を張っていえたのに、有名な作品の名前さえなかなか出てこないのには我ながら驚いた。

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