« シドニー・4.コアラ | トップページ | 『雨の中に消えて』・石坂洋次郎 »

2012年5月10日 (木)

下北半島の日本猿

先日のNHK『ダーウィンが行く』で下北半島のニホンザルを取り上げていた。ハルという名の老猿を中心に物語仕立てのようになっている。視聴者は全くの野性猿を撮影したと思うのだろうが、実際は人間がしっかり保護しているはず。
高校を卒業した年、友人のA子に連れられて下北半島の猿を見に行った。彼女は生物学専攻で、当時北限の猿に非常に興味を持っていた。出かけたのは3月。40年以上前の下北半島は交通の便が悪いうえに時節柄雪に閉ざされ、若い娘が猿の保護地区まで行くことなどどう考えてもできそうもなかった。けれどもどうしても見たいというA子の情熱がユースホステルのおじさんの心を動かした。
地元の人しか絶対に運転できないだろう山道を2時間近く走ると、深い雪のなかに小さな番小屋が心細そうに建っていた。そこにはたったひとりお爺さんがいて何をするでもなく静かにストーブにあたっていた。私たちが番小屋に着くと、驚いたようにどこから来たのかと聞いた。それはそうだろう、こんな若い娘たちがいったい何のために何時間も雪道を走ってやってきたのか…。A子は猿が好きだから、などといい、番小屋のお爺さんを仰天させた。何でもいいからはやくストーブにあたりなさい、とお爺さんは親切にいってくれた。もうすぐ降りてくるから一緒にりんごをやるといいよ、ともいってくれた。
時間が来ると、お爺さんは小屋の隅に山のように積まれたリンゴを布袋に入れて、完全に防寒して外に出て行った。雪の中に立って猿が山の上から下りて来るのを待つのだ。私たちも外に出て一緒に待った。それにしてもあまりにも寒く、私は殆ど凍えていた。猿はなかなか降りてこない。それでもA子は外で待つという。私はついに耐えきれなくなって番小屋に駆けこむとストーブにへばりついた。どれくらいの時間が経っただろうか…ついに私の名を呼ぶA子の声が…。
番小屋から出て眺めると、雪の斜面を何やらパラパラと黒い石ころのようなものが転がり落ちてくる。猿の群れだった。A子は本当に嬉しそうだった。私も凍えながらもわくわくして眺めた。私たちはお爺さんに手渡されたリンゴを、取っては投げ取っては投げした。A子のおかげで私も本当に素敵な光景を見ることができた。あれから40年以上経っているけれど、今でも下北半島の猿にはなかなか会うことはできないのかもしれない。

|

« シドニー・4.コアラ | トップページ | 『雨の中に消えて』・石坂洋次郎 »

動物・鳥」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192606/54680281

この記事へのトラックバック一覧です: 下北半島の日本猿:

« シドニー・4.コアラ | トップページ | 『雨の中に消えて』・石坂洋次郎 »