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2013年3月15日 (金)

『荒涼館』 C・ディケンズ



 イギリスのドーバー近く、ブロードステアーズという町に、Bleak House(荒涼館)と呼ばれる館がある。浜辺から急坂を上っていくと海を見下ろす丘の上に何となく陰気な感じで建っている。黒々とした壁には「文豪ディケンズがここに住んだ」と書かれた記念碑がはまっている。
 けれども玄関脇の売店には埃だらけの貝殻と絵葉書が置いてあるだけ。私が訪れた日は連休のせいか子供連れの客が何組かいたが、ディケンズが暮らしていたBleak Houseの内部まで入っていく人はなかった。玄関を入ると展示室や玉突き場などがあり、2階に上るとディケンズの寝室(ロチェスターのブルホテルから持ってきた大きなベッドとガッツヒルプレースにあったイス2脚がある)と書斎(同じくガッツヒルプレースから持ってきた椅子がある)が並んでいた。(ガッツヒルプレースはディケンズの終の棲家だが今は学校になっている)この部屋でディケンズが大好きだったイングリッシュ・チャネル(ドーバー海峡)を見ながら『デビット・コパフィールド』の何章かを書いたという。建物の中に入ってみると、はっきりと荒れた様子が見える。管理の悪さ、経営の悪さ、展示の趣味の悪さ…。地下にはスマグラー(密輸業者)の等身大の人形が並べられ、このあたりの浜辺が有名な密輸取引の場所だった、月夜の晩に海から荷物を上げてこの家の地下に隠した、などという説明書きがあった。
 Bleak House に行ったのは2003年の夏だったが、もうこの国でもディケンズは忘れられているのだろうか、ヴィクトリア時代は遠く過ぎ去り、今のイギリス人には想像すらできないのだろうかなどと寂しく感じたものだ。(でも本当はそうでもなくて、若いイギリス人もディケンズを読むのだということが後になってわかったのだが)
あれから10年を経て、Bleak House が今、どうなっているのかわからない。
 このところ、いくつかディケンズを再読したりしていたが、ブロードステアーズにある館と同じ名の長編小説『荒涼館・Bleak House』を読んだ。400ページの文庫本で4冊、物語はある資産家たちが、遺産分与の件で争っている間に遺産金のすべてを控訴で使い果たしてしまったという話。「お金」に振り回される人間たちの喜怒哀楽の物語だ。その主人公たちが住んでいたのが『荒涼館』という館。結局、「お金」に対して冷静だった賢い人々が本当の幸せをつかんでハッピーエンドとなる。
 興味深いのは、登場人物のひとりが自然発火で焼死する場面だ。当時、「多量に飲酒すると、体内で自然発火して焼死する」ということが信じられていて、様々な証拠も上がっていたという(もちろんイカサマだろうが)。ディケンズ自身も信じていて、そんなことはありえないという抗議の手紙に反論している。ディケンズは本気で信じていたのだろうか…でもそういうところがディケンズらしくて素敵なところなのだけれど。

 

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