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2016年11月22日 (火)

『濹東綺譚』*永井荷風

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私は就寝前に必ず本を読む。『濹東綺譚』は何度も繰り返し読んでいる愛読書。

下町は玉の井の寺島というところ、汚い溝(ミゾではなくドブと読む)際の、蚊がむらがる小さな家に寝起きして春をひさぐ、お雪という美しい娘と「わたくし」の物語だ。晩年の「わたくし」が、小説『失踪』の構想を練りながら、お雪のもとに通い続けたのは夏から秋にかけての、ほんのみつきほどのこと。そして足が遠のいた9月の終わりには、お雪が病んで入院していることを聞く。そしてその10月は、「例年よりも寒さが早く来た」のだった。

11月も「小春の好時節になった」ある朝、「窓の外に聞える人の話声と箒の音とに、わたくしはいつもより朝早く眼をさました」それは「隣の女中とわたくしの家の女中とが…話をしながら…落ち葉を掃いているのだった」。思えば、親しい人々は逝ってしまった。まるで落ち葉が散るように。せめて今日は彼らの墓の上に積もった落ち葉を掃いに行くことにしよう、私もすぐに彼らの後を追うことになるのだから……。というわけだが、なんでもないことが書かれているのに、なんと美しい心に沁みる読み物だろう。

しかしながら私は荷風先生のようなわけにはいかない。朝まだき、落ち葉を掃く音と人の声を聞いたら、すぐに箒をもってとびだしていかなくてはならない。近所の人たちが皆で道を掃除している。私も掃かなくては。

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