« 伊豆の桜 | トップページ | 70歳の中学生 »

2019年5月11日 (土)

『ふらんす物語』

Dsc_6654

永井荷風の『ふらんす物語』を読む。少し前に『あめりか物語』を読み、内容よりも文章の美しさにひかれた。1903年にアメリカに渡った荷風は、4年間のアメリカ滞在の後、憧れのフランスへと向かう。『ふらんす物語』は発禁になった有名な本のひとつで、書かれてから60年もあとに世に出た。とにかく当時の日本にあれだけ否定的だったら、軍部でなくても抵抗があるだろう。かなりの西洋かぶれで話題といえば娼婦のこと。しかしそれらはかえって当時の日本男性の性向を示しているようで興味深い。

『ふらんす物語』の最後、『悪寒』と題する章に、こうある。「巡査、教師、軍人、官吏……楠木正成の銅像、人道を種に金をゆすって歩く新聞紙、何々すべからずずくめの表札……器量の悪い女生徒、地方出の大学生、ヒステリー式の大丸髷、猿のような貧民窟の餓鬼、昔から日本帝国に対して抱いていた悪感情が……過ぎた夜の悪夢を思い出すように、むらむらと湧返って来た」これは帰国の途に就いた荷風が、しだいに日本に近づきつつある船上で感じた焦燥と諦念だ。楠木正成の銅像まで引き合いに出して、西洋に比べて意識の低い貧しい野蛮国だという、敵意に近い感情を持って語られる祖国日本。続いて、中国で教官をしていた日本男性とその妻子に対する感情的な批判と悪口が続き、そこからアジア全体の悪感情へと発展していく。欧米の植民地となり搾取しつくされたアジアの国々に対する同情、富と力でアジアを奪いつくした欧米に対する怒りは感じられない。しかしそんな荷風が、晩年は日本の文化を愛して日本情緒に浸り、あの小説風随筆の名作『墨東奇譚』を書き残したのだから……

|

« 伊豆の桜 | トップページ | 70歳の中学生 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 伊豆の桜 | トップページ | 70歳の中学生 »